裏切りの始まりはあの同窓会だった

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裏切りの始まりはあの同窓会だった

GoodNovel 完結

私の名前は古澤あすか(ふるさわ あすか)。ずっと好きだった高校時代の同級生、栗原亮介(くりはら りょうすけ)が失恋したと知った時、私は後先考えず、彼に近づき、体の関係を持った。 その後、周りの人たちは口々に私を非難し、「人の弱みにつけ込んだ女」だと決めつけた。 けれど翌日になると、亮介の圧力により、その人たちはすぐに私の前で土下座し、額を床に擦りつけて謝った。 結婚してからの亮介は、私をこれでもかというほど大切にした。 彼の元カノである女性、岡崎小鳥(おかざき ことり)が帰国したと聞いても、ただ淡々と笑っただけだった。 「俺が好きなのは、あすかだ。あの人じゃない」 私は、亮介が本当に彼女を忘れたのだと思っていた。 ――あの日までは。 同窓会で、私は見てしまった。 亮介が、小鳥の前に跪いている姿を。 声を震わせながら、彼女に縋るように言った。 「小鳥……会いたかったよ」

チャプター (1)

第1話

私の名前は古澤あすか(ふるさわ あすか)。ずっと好きだった高校時代の同級生、栗原亮介(くりはら りょうすけ)が失恋したと知った時、私は後先考えず、彼に近づき、体の関係を持った。 その後、周りの人たちは口々に私を非難し、「人の弱みにつけ込んだ女」だと決めつけた。 けれど翌日になると、亮介の圧力により、その人たちはすぐに私の前で土下座し、額を床に擦りつけて謝った。 結婚してからの亮介は、私をこれでもかというほど大切にした。 彼の元カノである女性、岡崎小鳥(おかざき ことり)が帰国したと聞いても、ただ淡々と笑っただけだった。 「俺が好きなのは、あすかだ。あの人じゃない」 私は、亮介が本当に彼女を忘れたのだと思っていた。 ――あの日までは。 同窓会で、私は見てしまった。 亮介が、小鳥の前に跪いている姿を。 声を震わせながら、彼女に縋るように言った。 「小鳥……会いたかったよ」 第1話 「真実と挑戦、どっちにする?」 同窓会の席で、小鳥はほんのり頬を赤くしていた。少し酔っているらしい。 「……真実で」 「じゃあ聞くけどさ……昔、亮介がまだ何者でもなかった頃、あいつを振ったよな?今じゃこんなに成功してるけど、後悔してる?」 その質問を聞いて、私の胸がひやりと冷えた。 隣にいる亮介の手が、わずかに強く握られる。 小鳥も一瞬だけ目を見開いた。けれど、すぐに何でもないような顔で言った。 「ごめん……別のにしてもいい?」 「じゃあ亮介にキスしてみろよ」 周囲から一斉に歓声が上がる。小鳥はゆっくり立ち上がると、まっすぐこちらへ歩いてきた。 その姿を見た瞬間、私は高校卒業式の夜を思い出した。 あの日も、亮介にキスしろと言われ、彼女は今と同じように、亮介のもとへ歩いていった。自分より頭ひとつ分高い亮介を見上げ、眉を上げる。 「何をぼうっとしてるの?私からキスしないとダメ?」 普段、あまり感情を顔に出さなかった亮介は、彼女を壁に押し付けると、我を忘れたかのように深いキスをした。 その隣で、私はみんなとはしゃぎながら、18年間抱えてきた片思いを、胸の奥へ押し込んだ。 亮介とは、一生縁がない。 そう思っていた。 しかし、その2ヶ月後に小鳥が海外へ行ってしまった。そして、誰もが羨む存在だった亮介が、まるで別人のように変わり果ててしまった。 彼は正気を失い、誰が近づいても突き放し、誰の言葉にも耳を貸さなかった。 私は進学まで諦め、何もかも捨てて彼のそばにいた。 3年間、彼の身の回りの世話をし、どれほど酷い言葉を浴びせられても、どれほど乱暴に扱われても、ただ黙って受け入れた。 「お前は、いつまで経っても小鳥の代わりにはなれない」 分かっていた。 私が彼にとって、ただの代用品にすぎないことくらい。 それでも――あの日だけは、違った。 何度も何度も彼に縋ったのに、亮介は私の気持ちなど顧みようとしなかった。 とうとう堪えきれず、私は泣いた。 3年間、一度も流さなかった涙だった。 亮介は、呆然と私を見つめた。その目に、一瞬だけ後悔と罪悪感が浮かぶ。そして――初めて、私に向き合った。 「……あすか。俺は、お前を愛するよ」 あの日を境に、亮介は変わった。小鳥のものをすべて処分し、私に何かと気を配るようになった。 そしてある日、私の前で片膝を地面についた。 まっすぐ私を見つめて、真剣な声で告げる。 「あすか、愛してるよ」 …… 「悪い、俺、結婚してるんで」 亮介は私の手を強く握ったまま、小鳥を冷ややかに見つめた。 「妻以外の女性とそういうことをするつもりはないから」 小鳥の顔から余裕が消える。まさか、亮介が人前で自分を拒むとは思っていなかったのだろう。 彼女は一度だけ深呼吸をし、それから「失礼しました」と言うと、逃げるようにその場を離れていった。 亮介は口を緩め、私を見た。「どうした?俺が彼女とキスすると思った?」 私は唇を噛んだ。 すると亮介は、優しく私の頭を撫でる。 「小鳥は小鳥。あすかはあすかだ」 耳元に触れる吐息に、顔が熱くなる。 私は照れ隠しに彼を押し返した。心臓が、やけに速く打っていた。 周りでは、同級生たちが面白そうにこちらを眺めている。 「さすが亮介、ほんと一途。あっさり断るところ、みんなも見習うべきだな」 「亮介、惚気はやめてくれ。ここには独身のやつもたくさんいるんだぞ。みんな虚しくなるって!」 どっと笑いが起こる。 亮介も笑って立ち上がった。 「悪い、ちょっとトイレ行ってくる」 彼が席を外している間、私もお酒を飲んだせいか、胃の調子がおかしい気がした。 亮介にメッセージを送り、帰りたいと伝えた。 けれど、既読はつかない。 仕方なく探しに出ると、隣の個室から声が聞こえた。 「さっきの質問、どうして答えなかった?」 「亮介、放して!こんなことをされると……困るんだけど」 小鳥の声だった。その瞬間、私は足を止めた。 「放してって?昔、抱いてほしいって言ったのは、お前だったよな?」 亮介の声は低く、押し殺した熱を帯びていた。 続いて、何かが壁に触れる音と、口付けの音が聞こえた。 「小鳥……会いたかったよ」 小鳥が震える声で尋ねる。 「……もう結婚してるのに?」 「小鳥は小鳥。あすかはあすかだ」 個室の向こうから、途切れ途切れに物音が響いてくる。 それを聞いていると、胸の奥を、今まで感じたことのない痛みが抉った。 私は震える手で、亮介に電話をかけた。 すぐに着信音が鳴る。個室の中が、一瞬静まり返った。 けれど亮介は、何も言わずに電話を切った。 「……あすかにバレたらどうするの?」 しばらくして、亮介が小さく笑った。 「バレたところで、どうってことないさ。だって、あいつは俺のことが好きだから。俺なしじゃ生きていけないんだよ」 私は、指先が白くなるほど、スマホを握り締めた。 個室の扉を見つめる。 けれど、開けることはしなかった。ただ、静かに呟く。 「……さようなら、亮介」 第2話 「末期の胃がんです」 医師から渡された診断書を眺めても、心は何も感じなかった。 これが少し前の私なら、泣いていた。亮介に縋りついて、離れたくないと駄々をこねていた。 けれど今は――もう、そんなことさえどうでもよかった。 私は会社に退職届を出した。 家に戻ると、必要なものを少しずつ荷造りしていく。 これまでの人生は、ずっと誰かのために生きてきた。だから残された時間くらいは、自分のために生きてみたい。 そんなことを考えていたときだった。 「……あすか、大丈夫だった?」 玄関のドアが開き、亮介が慌ただしく入ってきた。その顔には、心配そうな表情が浮かんでいる。 「ごめん、スマホの充電が切れてて、さっきやっとメッセージが見れたんだ。まだ具合悪い?今から病院に行こうか」 私は何も言わず、亮介の首元を見つめた。そこには、赤いキスマークが残っていた。 ふわりと漂う、かすかなクチナシの香り。 ――小鳥がつけていた香水の匂いだ。 ついさっきまで別の女を抱きしめていたはずなのに、どうして今は何事もなかったような顔で、私を気遣うことができたのだろう。 人の心は、本当に2つに分けられるのだろうか。 半分を彼女に。もう半分を、私に。 「……大丈夫。ぬる湯を飲んだら治ったから」 私は小さく答えた。 亮介はほっとしたように息を吐く。そして、私が荷物をまとめていることに気づく。 「何してるんだ?どこか行くのか?」 私は顔を上げた。 「少し出かけたいの。いろんなところを見て、景色を楽しんで……亮介も一緒に来る?」 自分でも、馬鹿みたいだと思った。こんなことになっているのに、それでも心のどこかでは、まだ期待していた。 残された時間を亮介と一緒に過ごせるなら――このまま死んでも、きっと後悔しない。 いつだって私の頼みを聞いてくれた亮介が、珍しく言葉を濁した。 「ごめん、あすか。最近、会社のほうが少し忙しくてな。どうしても手が離せないんだ」 「忙しいのって、小鳥を秘書にすること?」 私はスマホを取り出した。画面には、小鳥のSNSの投稿が表示されている。 【神様、ありがとう。今度こそチャンスを掴んでみせる】 添えられた9枚の写真は、全部亮介と小鳥のツーショットだった。 亮介は困ったように眉を寄せる。 「……あすか。俺と小鳥はもう終わってる。今はただの雇用主と社員だ。小鳥は一流大学を出てるし、金融を専攻してる。俺にとって仕事の助けになる。ちょうど彼女も仕事を探してるから、少し力になってやりたかったんだ」 私は亮介を見つめた。そして、ふと口にした。 「亮介。私だって、本当は一流大学に行けたんだよ」 亮介が一瞬、言葉を失う。けれどすぐに笑って、私の肩を抱いた。 「どうした?まだヤキモチ焼いてるのか?俺がまだ小鳥に未練があるなら、お前と結婚したりしなかったさ」 私は、その腕を振りほどいた。 「亮介……私たち、離婚しよう」 亮介が固まった。やがて、苛立ったように眉をひそめる。 「小鳥を秘書にしたくらいで、離婚するのか?俺は昔の同級生を気にかけてるだけだ。そこまで拗ねることないだろ」 「拗ねてない」私は静かに首を横に振った。「ただ……疲れただけ」 亮介は苛立たしげに部屋の中を歩き回った。そして最後には、何も言わずにドアを乱暴に閉めて出ていった。 …… その日の午後、小鳥が突然、家を訪ねてきた。 「今日は謝りに来たの」 大きな紙袋をいくつも抱え、にこやかに笑っている。 私は警戒しながら、小鳥を見つめた。 ――いったい、何を企んでいるのだろう。 小鳥は私の視線など気にも留めず、勝手知ったる様子で家の中へ入っていく。そして部屋を見回すと、ふと感慨深そうに呟いた。 「こんなに経ったのに、亮介はまだ私が買った家具を捨ててなかったのね」 私は、思わず固まった。 家具を買い替えたいと何度も言ったことがある。けれど亮介は、そのたびにこう言っていた。 ――大切な人が残してくれたもので、思い出がいっぱい詰まっているから、捨てたくない。 まさか、その「大切な人」が小鳥だったなんて。 小鳥は慣れた手つきで持ってきたものを冷蔵庫にしまっていく。その仕草のひとつひとつが、私よりずっと自然だった。 まるで、この家の主人は自分だと言わんばかりに。 そして私は――ただの居候。 「実はね、今日、亮介にクビにされたの」 小鳥は私を見た。その瞳には、私には読み取れない色が浮かんでいる。 「本当に、亮介ってあなたの言うことをよく聞くのね」 一拍置いて、小鳥はどこか感慨深そうに続けた。 「誰も想像できなかったんでしょうね。昔は何をされても黙ってるだけの、あんな目立たない子が今、亮介の妻だもの」 身体が、勝手に震え始めた。 昔、小鳥にいじめられていた記憶が脳裏に蘇る。 小鳥はそんな私の反応を見て、満足そうに口元を歪めた。ソファに腰を下ろし、脚を組む。 その目には、隠そうともしない敵意が宿っていた。 「知ってる?昔、亮介と別れたのは、彼が貧乏だったからじゃなくて、ろくでもない人間だったからなの」 私は思わず尋ねた。 「……じゃあ、どうして戻ってきたの?」 その質問が愚問だと言わんばかりに、小鳥は小さく笑った。 「後悔したからよ」 第3話 私は笑った。 小鳥は明らかに戸惑う顔をした。彼女の中では、私は怒るはずだった。取り乱して、彼女を罵るはずだった。 なのに私は、笑っていた。 おかしくて、とうとう涙までこぼれた。 「……何がそんなにおかしいの?」 小鳥が眉をひそめる。 私は涙を拭いながら、笑った。「ろくでもない人間同士、お似合いじゃない」 「なっ……!」 私は淡々と言った。 「亮介はあなたに譲るよ。私は出ていくから」 今度は、小鳥のほうが動揺した。 「……本当に、それでいいの?」 私は聞き返した。 「あなた自身が、あの人を『ろくでもない男』だって言ったんでしょう?だったら、私が残る理由もない」 小鳥の顔に、苛立ちが滲む。私をじっと睨みつけたかと思うと、ふっと鼻で笑った。 「あなた、本当は強がってるだけでしょう?昔はこんなに聞き分けがよくなかったもの。私を嫉妬させて、焦らせようとしてるんじゃない?」 そして、楽しそうに口元を歪めた。 「知ってる?あなたが大事にしてるその『優しい夫』ね――私の足に口づけて、媚びへつらったことがあるのよ。それどころか、『ママ』って呼んだことまであるの」 胸の奥に、鋭い痛みが走った。 もう、ここを出ていくと決めている。それでも、その言葉は容赦なく心を抉った。 亮介が私の体を求めてくる時、こちらの気持ちなんて少しも気にせず、いつだって私のほうに我慢を強いてきた。 そんな亮介が――別の女には、そこまでして縋っていた。 「それから、忘れないでね。私、あなたのよくない写真を持ってるの。大人しく亮介から離れたほうが身のためよ」 そのとき、玄関のドアが開いた。 「ただいま」 亮介の声が響く。 「あすか、俺は小鳥をクビにしたから、もう怒るなよ。あすかの好きなカニも買ってきた。俺がご飯を作るよ」 そこまで言って、亮介の足が止まった。 リビングにいる小鳥を見つけたのだ。 「……なんで、ここにいる?」 小鳥はすぐに笑顔を作った。 「あすかに謝りに来たの」 それを聞くと、亮介の表情が少し和らいだ。 「そうか。せっかく来たんだし、一緒に食べよう」 「じゃあお言葉に甘えようかな。私も、得意料理を作ってあげるよ」 2人は並んでキッチンへ向かっていく。 私はその背中を見つめた。爪が掌に食い込むほどに両手を強く握りしめる。 胸の奥から、じわじわと血が滲むようだった。 結婚して3年。 亮介は家事など何ひとつしなかった。だから私は、彼が料理までできるなんて知らなかった。 「亮介、料理の腕、落ちたんじゃない?昔のほうがおいしかったわ」 食卓で、小鳥がいかにも不満そうに言った。 亮介は苦笑する。 「ずっと作ってなかったからな」 小鳥は私を見ると、にこやかに続けた。 「あすか、普段亮介にも料理させればいいのよ。甘やかしちゃだめだからね。この人、こう見えても、いろいろできちゃうんだから」 「いいから食べてよ。食事中なのに、よくこんなに喋れるな」 亮介は呆れたように言い返し、それから私を見る。 「あすか、どうして食べないんだ?」 「……私、カニにアレルギーがあるの」 亮介の顔に、気まずそうな色が浮かんだ。 すると小鳥が、何でもないことのように口を挟む。 「そうなの?私、アレルギーに効く民間療法を知ってるよ。カニを食べる時、度数の高いお酒を一緒に飲むの。ちょうどウィスキーも持ってきたから、試してみたら?」 私は首を横に振った。 「無理。私、胃がんだから……お酒は飲めないの」 亮介が眉をひそめる。 「胃がん……?そんな話聞いてないぞ?どうして胃がんなんかに……」 理由なら、彼が知ってるはずだ。この3年間、私は亮介に付き合い、何度も酒の席に出てきた。そのたびに無理をしたせいで、私の胃はとうにぼろぼろだった。 小鳥が唇を尖らせ、目に涙が浮かんでくる。 「……あすか。やっぱり私のこと、嫌いなんでしょう?もう帰るね」 亮介が苛立ったように、テーブルを叩いた。 「あすか、今日は小鳥の誕生日なんだぞ。少しくらい我慢したらどうなんだ?」 ――今日が、小鳥の誕生日だったのか。 私は何も言わなかった。 亮介は酒をグラスいっぱいに注ぐと、私の前に置いた。 有無を言わせない視線だった。 「飲めよ。酒くらいで何が起こるっていうんだ」 それでも、私は首を横に振った。 すると亮介は立ち上がった。グラスを掴み、そのまま私の口元へ押しつける。 次の瞬間、酒が喉へ流れ込んできた。焼けるような痛みが、喉から胃へと落ちていく。 涙が滲んだ。 それでも亮介は、やめなかった。 向かいでは、小鳥が楽しそうに手を叩いている。 その光景を見ながら、私はふと思い出していた。 プロポーズの日、亮介は私の手を握り、誓うように言った。 「あすか、安心しろ。これからは本気でお前を大切にする。お前が嫌なことは絶対にさせないし、傷つけるようなこともしないから」 「……っ」 口の中に、鉄の味が広がった。 次の瞬間――私は、テーブルの上に血を吐いた。 意識が遠のいていく。 最後に見えたのは、顔面蒼白になって立ち尽くす亮介だった。 「……あすか?どうしたんだ?頼むから……目を覚ましてくれ!」

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